ここは韻文を公開する場です。
基本的に制作開始時基準で上は新しく下は古い物です。

寢轉んで空を見上げろ 妨げる過去も未來も何も無いから


公園のベンチの手摺りが奪ったのは持たざる者の最後の苫屋


 天地を観て詠める。
むせかへるほど美しきこの地球(ほし)に我は命ず「幸ひあれ。」と


 午前四時半にマンションの11階から東の空を見て詠める。
明け毎に偉大なる虹かかること 八十億の誰か知るらむ


 マンションのオートロック式ドアを前にして詠める。
世界は隔てられてゐる mansionのentranceのglassの如く


店先の掃除の手間が揩ヲてきて秋を知りたる殘暑の夜更け


 夕刊配達中に青と白の天を見上げて詠める。
「美しい」なんて言葉はなんて陳腐なの 午後四時半の空はうつくし


 ドン・キホーテの水槽に映れる觀覽車を見て詠める。
我こそが終端觀測者なれといふ保證がどこにあるといふのか


 午後七時半の公園を見て詠める。
ふらここは稚兒と親とを見送りて、ぢっと眠る こゑがするまで


いかづちのエナジイ流るる蜘蛛の巣も雲を捕らふることは能はじ


夜過ぎて朝來たるらし いや、違ふ。烏が夜を吸ひ取ったのだ


街路樹は死んぢまったと思ってた。雀ねず鳴くセ氏一度の朝


立駐の鋼の網の透き間から這ひ出た光を掬って生きる


雨風とインクと夜にまみれたるこの生きざまを侮蔑すべきか


掃いても、掃いても掃いても積もりゆく黄葉(もみぢ)のごとく 人は死にゆく


 たそがれ時にビルの14階より街竝みを眺めて詠める。
黝(あをぐろ)き尾根に圍まれたる都市で今日も死にゆく 今日ぞ生まるる


アメリカがロシアがシリアがフランスが日本がアメリカが 俺はゲームする


冬の夜のかそけさ破るパトカーのサイレン過ぎたるあとのかそけさ


 午前六時、ビルの十一階より空を見て詠める。
神無月東の朱(あけ)と西の蒼(あを)結びて思ほゆ大いなる虹


 朝刊配達中、八階にて東の赤き空を見、また四階にて既に黄金(くがね)色になりたる空を見しときに詠める。
朝燒けの黄金(くがね)に變はる瞬間に働きつゝある吾ぞ誇らしき


 秋の初めの午後四時に、空色の空を見て詠める。
空の名を誰や初めに名付けたる 姿は見えず手も届かぬに


 早朝の公園にて、鳩の小さく柔らかき羽の秒速2センチメートルにて落つるを見て詠める。
滅色(けしいろ)と卯の花色の雜じりたる鳩の押羽のゆるやかに落つ


 終戰記念日の明け方に詠める。
朝ぼらけ秋蟲の聲聞ける頃 蝉はしづかに死にたまふなり


 朝刊配達中、白みゆく街に聳ゆる十四階建ての高級アパルトメントの七階と六階のあひだの踊り場にて、救急車の遠いサイレンを聞きて詠める。
白みゆく街に響けるサイレンの音遠し あゝ、のどがかわいた。


ふることは罪の坩堝ぞ カフェオレのコップの底に殘りたりける


新聞配りて歸りて風呂入りて顏ふくときの しづけさ


梅雨空の曇りの明けの羽蟻を 潰し殺して屑籠へ捨つ


六月の朝の六時のくるまみち アラーム音を我のみぞ聞く


目開かば忌まわしき朝訪れむ 「二度と來るな」と今日も夜更かす


顏も見ずを過ぎゆく人を背に「寒い寒い」と事無げに云ふ


千人の悲鳴のごときシャッターの開く音こそ八時なりけれ


一生は二十五億秒ほどといふ 夜中の時計の針ツッ、ツッ、


たつた三千里の先の銃聲も風に掻き消ゆ 吾テクノ聽く


前を見よ 我が乘りたるは先頭の車輛に幾度血を浴びたるか


鋼鐵の暴食獸に食はれけり 消化されつつ吊革握る


鐵塊は風を潰して驀進す 小學四年の背ほどの前を


巨大なる鐵の蚯蚓は驀進す 其を人は皆デンシャとぞ言ふ


現實に刺さつた棘を一本一本拔いてゆく。時給800円


切れかけの螢光燈の如き顏 あゝさういへばそれ俺の顏だ


手袋と耳當て付けてケッタ驅る我が顏を見て驚くねこま


我が顏は映らざりけり 冬の夜の待合室のガラス白む


明日はきっとヨミノアシロの夢を見る 耳栓をして 蒲團に沈む


秋の夜にメタセコイアの樹皮剥がれだんだん濡れゆく秋の曙


胎児にも原始卵胞あるといふ 「連續せよ」と生命の指示か


眞白なる電車の吊り下げ廣告の裏面の如き最後の雪


くそったれとアパートの壁撲りつつ響かぬ壁を探して歩く


鍵忘れ玄關前をうろつけり。隣家の聲をききつつうろつく


心頭をICチップに置き換へて出力すべし 仁愛の道


沈みたる空母は二億年ののちマントル鳥の巣にぞなるらむ


假面を剥ぎ假面を剥ぎて假面剥ぎ假面剥ぎ果つ 首無かりけり


吉野家とすき家と松屋通り過ぎわが家に入りうどんを茹でる


親指を切り落とされる夢を見て親指を見る ウィンナー食ひつつ


「麪の量二倍にすれば良かつた」と言つた男が殘したスープ


雨降らし富士山巓を溺殺し成層圏に住みたかりけり


乾涸らびた時計と象がたはるそんな世界がいつまで續く


誰がため何がためにぞ拂ひける三十七ドル四十九セント


生卵。突風が吹き割れたまま凍ったような、私の頭


八月の雨長々し空暗しマーボー豆腐にネギ添へてみる


雨降れば雨の止むまで待ちませう心病むれば又待ちませう


喜びも悲しきことも若き日も暮らし暮らせばすべて暮れゆく


ビル白む、夏の初めの五月雨の雨ふらずして雲垂れ籠める


雨ふれば雨あがらなむ雨ふらば雨ふらなむこゝろさめざめ


久方の長雨降りぬる夕暮れに雨音を聽く 時よ、止まれ